私がたびたび乗り降りに利用する駅は、東京隋一の百貨店
が立ち並ぶ街に近いこともあり、午後1時ごろの時間帯でも
車内はほとんど満員です。
私は荷物を持って乗客でいっぱいの車内をやっとのことで
中ほどまで入り、吊り革につかまる事が出来ました。ホッ
とした直後、急に大勢の方が降りられ、まわりを見回せる
くらいに空間が出来たところ、斜め後ろの席がひとつ空い
ておりました。ですがその席の前には30代中頃でしょうか、
1人の男性が片手に吊り革を、他方の手には本を持ち、
熱心に読んでいらっしゃいました。
おそらくあの男性はこの席に掛けられるだろう、と目を
逸らそうとした時です。男性は私の気配に感づかれたの
でしょうか、他に数名ほど立っておられる方へ、この席
は空いていますよ、とまるで言うかのように席の前から
少し体を移動し、空席の前をあけた位置で再び依然と変
わらない姿勢のまま本に目を向け始めました。ほんの
数cmほど移動されただけであったのですが、そのあたた
かみのある自然で何気ない動作は、決しておしきせがま
しいものでもぎこちないものでもなかったため、実に魅
力的で印象に残りました。
内に秘めた優しさは何気ないしぐさにこそ現れるものです。
自己主張されるのは大変結構なこと。しかし大仰な言葉よ
りもわずかな心遣いこそが鮮明に記憶に残るものであり、
また女性もしっかりその心遣いに気づいているものなのです。
粋な男性になるための秘訣はこれこれをこうする事だ、
などという安易な外面の装飾も必要ですが、接する方に
信頼される人柄は日頃の小さな心くばりからも形成され
ていくものと私は信じております。
冠婚葬祭マナーコンシェルジェの日記 作者 Angel カテゴリーマナー(しぐさ