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言葉づかい アーカイブ

2007年08月17日

丁寧が失礼へとかわる時

夏のある日のこと、化粧品売り場のカウンターで女性のお客様が商品を前に並べて質問をしておりました。対応している50歳代とみられる販売員の女性は、質問に対しお答えをしながら新しい2,3の品物も説明しております。
お客様は随分長いこと、この化粧品を使っているのにあまり変化が見られないようで、多少不満も感じている様子が言葉の端々からくみとれました。
なかなか素直に納得しない状況に対応するのが難しくなったのでしょう。販売員の女性は「たまにはクリームでもお使いになってみますか?」と促しました。本人は、質問に対してアドバイスできる方法を全部お話しして、最後にこのようにおすすめしたのだから誠実な対応だったと思ったかもしれません。しかしその場にたまたま居合わせた私も、そしてもちろん質問されていたお客様も共に、この発せられた言葉から一抹の誠実さも感じとることができなかったのです。
事実、このお客様は気分を害されてしまいました。
「たまにはクリームでもお使いになってみますか?」
前後の会話のない紙面上で読むのならばとても丁寧に聞こえる言葉だと私も思いました。ではなぜこのように丁寧な言葉から心が相手に全く伝わらなかったのでしょうか?少し一緒に考えてみることにしましょう。
簡単のために理由をいくつか示してみますので、このお客様の立場で考えてみて下さい。
(イ) 言葉づかいが丁寧すぎたので逆に不快感を与えてしまった。
(ロ) 間違った化粧品を使い続けていたのだと暗に指摘してしまった。
(ハ) 気分転換を促すような口調でお客様の不満から話を逸らしてしまった。
全てがもっともらしい理由に思えてきますが、ここではまだ答えを示さずにおきます。
続いて、ではどのような言葉をお掛けしていたならば本当に自分が相手のことを考えているのだとこのお客様に伝わったでしょうか?
(イ) 今度はこのクリームを加えてお使いになって、様子を見てみましょう。
(ロ) 夏の季節はクーラーや強い日ざしでお肌に変化が出る事もありますので、こちらのクリームをおためしになってみてはいかがでしょう?
(ハ) それではクリームを加えてお使い頂くのはいかがでございましょう?お肌の様子も変わってくるかと存じますが。
ここで選択肢の記号に同じ(イ)、 (ロ)、 (ハ)、を再び用いました。
それぞれには先の対応する記号の理由に基づいた訂正が施してあります。
このように、改善された言葉がけをあらためて読んでみると、(ロ)の言葉が最も誠実に心に響くのではないでしょうか。こう考えたとき、お客様は(ロ)の、「間違った化粧品を使い続けていたのだと暗に指摘されたこと」で気分を悪くされたのだろうと想像することができます。
長いお付き合いをされているお客様に対して心安く発してしまった言葉だったかもしれませんが、お客様に対する親しさから行きすぎた表現をするとお客様を不快にさせてしまう事が多々あります。それはほんのわずかな言葉の使い方の違いなのです。この言葉づかいは正しい、そしてこの言葉づかいは間違っている、このようにはっきりした基準のあるものはその理解にさほどの苦労はありません。しかし日常会話での微妙な言いまわしの違いが相手に与える影響を考えるには、このように基準がないことを前提とした想像力が必要となります。敢えてこの販売員の女性の言動の中で一番不適切だった部分を指摘するならば、それは「たまには」という気楽な言葉を言頭に選んでしまった心(その時の心理状態)だと言えます。
お客様が不満を感じている商品が自分の会社のものである、この事実を知ったならば、たとえ自分がその商品を販売した人物ではなくともまず謝罪の意を表す、これは信頼関係を保つための基本と言えます。
そして例えばこの女性がひと言「大変申し訳ありませんでした」と述べて会話を始めていたならば、その後に決して「たまには」という言葉を続けようなどとは思い至り得なかったのです。
言葉は発する者の心を悟ります。私たちは自分の人柄などについて誤解をまねかないためにも、誠実な心をぜひとも身につけておきたいものですね。


冠婚葬祭マナーコンシェルジェの日記 作者 Angel カテゴリー 言葉づかい

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